2023年08月21日

マウイ島で買った楽器と「緑の車」の話

映像制作会社で働いていた1996年、写真旅行でハワイのマウイ島へ行った。AD1年目は仕事の奴隷だ。徹夜続きでとにかくくたびれていて、朦朧としながら会社のワゴンに乗り込んで出発したから飛んだのが羽田か成田かどっちだったかも憶えていない。初めての海外旅行だった。同じハワイでも日本人観光客が多いオアフ島ではなく、マウイなのがナウいのだ、みたいなことを社長は言ってた気がする。コンドミニアムを1棟借りて約10人くらいの旅行だったか。疲れ果てた身体にマウイ島の空気はとにかく優しくて、どんどん元気が出てきて、僕は先輩とずっとフリスビーをやっていた。GOMES THE HITMANの初期楽曲にフリスビーが登場しがちなのはこの時のせいで、「日向の猫」では何十年ぶりかにフリスビーブームが到来したタイミングでの再起用だった。ナイトクラブに先輩に連れられて出かけてビールをたくさん飲んでヘンテコな踊りを深夜3時まで踊って宿に戻ると、早起きしてきた別の先輩に無理やり標高2436mのハレアカラクレーターへ連行された。映画「未知との遭遇」も撮影された大自然の絶景、真夜中の寒さがTシャツにフリースジャケット、一睡もしていない僕を襲った。死ぬかと思ったけれど、日の出を目の当たりしたときにじんわり身体が芯から熱くなっていくのを感じて、太陽を信仰の対象に持つ人間の気持ちがよくわかった。

このマウイでの旅で「THE MUSIC MAKER」という楽器を買った。ハワイアンミュージックの伝説ギャビー・パヒヌイのカセットテープは手に入れたけれどウクレレを買う経済的余裕はなくて、この見たこともない楽器なら手持ちのお金で買えたのだ。東欧の内陸国ベラルーシ製の楽器だ。マウイ島で買う意味はまったくない。だけど僕はこの合板で作られた台形の楽器をマウイで買った。GOMES THE HITMANがアマチュア時代から演奏している曲に「緑の車」というのがある。今週末のライブで演奏するので音源を聴いて復習していたら、サビの前にハープのような煌びやかな音がして記憶が一気に蘇った。キラリと鳴るその音はまさにこの「THE MUSIC MAKER」をかき鳴らした音だった。僕が持っていったこの楽器をプロデューサー村田和人さんが面白がってくれてダビングしたのだ。他のどの楽器でも替えが効かない響きがそこにはあって、巻き戻らない時間みたいに感じた。

メジャーレーベルとの契約がなくなって一番お金がない頃に僕はたくさんのレコードや機材と一緒にこの「THE MUSIC MAKER」をオークションに出して売った。この楽器は「緑の車」の煌めきを吐き出してその役割を終えた、と僕は思ったのだろうか。ああ、これが手元にあったらな、とは思うけれど、僕らは今でもしっかり「緑の車」をあるべき形で演奏することができる。なくなったもののかわりに、違う響きを鳴らすことができるということがわかっている。画像はネットから拾ったもの。いつかどこかの古道具屋で再会したら買い戻すかもしれないけどね。

マウイの街が山火事で焼失してしまったニュースを日々呆然と眺めた。マウイで買ったベラルーシの楽器と「緑の車」のことをこの数日ずっと考えている。被災地の一日も早い復旧・復興を心より願う。

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Posted by monolog at 23:00│Comments(1)
この記事へのコメント
あのメ○カリですが、気になって先ほど
THE MUSIC MAKERのTHEを外したところ、販売中で出てきました。知育玩具のカテゴリに入っているかもしれません。
是非、ぜひ再現して下さい!

Posted by ねこねこ at 2023年08月22日 11:31