いよいよ8月、思っていた以上の酷暑の夏がやってきた。八月のベルカントと銘打って関東近郊で毎週末にライブをする企画。そのきっかけになったのは先輩からの「きみは吉祥寺ばっかりでライブをやってないで街を出んといかんよ」という言葉だった。最初の“ベルカント”は鎌倉。昨年以来1年ぶりとなるmoln名物企画「貸切り図書館」、もう何度も出させてもらっているイベントの記念すべき90回目。前日はカーネーション直枝さんが熱いライブを繰り広げていらっしゃった。奇しくも控室で僕も直枝さんも同じ窓の緑と光の眺めの写真を撮っていたのが面白かった。
汗をかきながら鎌倉入り、セッティングしてリハーサル。ほんの2日前くらいに五十嵐くんにはたくさん(新しい曲含め)課題曲を与えてしまったのでその練習。ベースとギターふたつの楽器のアンサンブルがとても新鮮。店主綾ちゃんにもコーラスを、遊びにくると連絡をくれたイシカワアユミさんにも鍵盤ハーモニカを持ってきてもらう算段をつけていたのでみんなで練習。夏休みの部活みたいな。
暑い午後、モルンから見下ろす線路沿いの道にたくさんのお客さんが列を作り始めて開場。開演時間になってもまだ窓の外は夏の夕刻の日差し。控室でひとり、ざわざわと賑やかな店内の音を聴いている心地よさ。窓の向こうに揺れる光と木漏れ日をずっと眺めていました。先月のGOMES THE HITMAN公演、先週末の名阪ツアーからほんといろいろなことがあって正直少し身体が重たい感じがあったけれどお客さんの前に出るとそういう負荷はどこかに行ってしまうから不思議。
オープニングは「夏の日の幻」。10年前の今頃、先代ポチを亡くした僕はポチ実が現れるまでの空白のなつを過ごしていたことを思い出す。GOMES THE HITMANのツアーで演奏するのが楽しかった「太陽オーケストラ」を弾き語りで一人でやってみたくてセレクト。反対にツアーでセットリストからもれた新曲「blue hour」をこの景色を見せてくれる“目”に感謝しながら歌いました。「貸切り図書館」名物の本の紹介、まず一冊目は一番最近読んだ本として、中原一歩著「小山田圭吾 炎上の『嘘』 東京五輪騒動の知られざる真相」。とてもフラットな目線で書かれた読み応えのあるルポでした。導かれて3年前、東京オリンピックの騒動の最中に書いた「音楽は魔法?」を演奏。
2冊目はMike Ayers編「ONE LAST SONG : Conversations on Life, Death, and Music」。これは死ぬ間際、最後に聴きたい曲はなにかをインディ/オルタナのミュージシャンたちが答えた本。たとえばコートニー・バーネットはシンディ・ローパーの「Girls Just Want to Have Fun」かルー・リードの「Perfect Days」、WILCOのジェフ・トウィーディーはザ・バーズの「Turn Turn Turn」、THE NATIONALのマット・バーニンガーはトム・ウェイツの「Hang Down Your Head」をあげている。僕はお葬式で流してほしい曲はR.E.M.の「Nightswimming」だと決めているんだけど、人生の終わりに聴く1曲を考えてみて、同じR.E.M.の「Half A World Away」を選んでみた。その曲を歌って、続けて「月あかりのナイトスイミング」を。
3冊目は「ポール・サイモン全詞集」と「ポール・サイモン全詞集を読む」ふたつを。自立するどころか落とすと怪我するくらいの重たい本。ひとりの偉人のすべてが封じ込められている。好きな歌はたくさんあるが、サイモン&ガーファンクル「America」は青春の1曲。そのサイモンすら憧れたフォークの神様ボブ・ディランの曲に永井宏さんが日本語をつけた「くよくよするなよ」を続けて。前半ここまで一人で弾き語り。
五十嵐祐輔くんは山田稔明バンドでずっと一緒に演奏している盟友。彼がやってた各駅停車っていうバンドのCDが出てそれにコメントを寄せたのが2000年だと思うからもう四半世紀だよ。GOMES THE HITMANツアーでは毎晩「光と水の関係」を歌ったけれど、この日は「光と水の新しい関係」からセッションスタート。「glenville」「hanalee」と長年演り慣れた楽曲もほぼほぼぶっつけ本番だから新鮮。「光の葡萄」を歌う頃には窓の外が暮れてきた。曲間に蝉時雨が聞こえてそこまでがアウトロっていう感じ。
ママンの話をして「シャーとニャーのはざまで」。みんなのコーラスと手拍子で楽しい盛り上がり。店主綾ちゃんを招いて「やまびこの詩」、この曲は五十嵐くんが音源でもギターを弾いてくれている。鍵盤奏者イシカワアユミさんを呼んで、ほぼ草とテンシューズを背負って「小さな巣をつくるように暮らすこと」、みんなのラララのコーラスも録音させてもらいました。美しい演奏だったな。なにはなくとも、みんなが元気でいればね。
アンコールでは新曲「あいとわをん」を五十嵐くんにギターを添えてもらって演奏。この曲、できあがってすぐに聴いてもらった高橋徹也さんが遊びにきてくれていたので彼を呼び込んで「my favorite things」。店主が好きなものを集めた空間に音楽で彩りを添えられたら。最後は「セラヴィとレリビー」で締めくくり、2時間ちょっとの“ファースト・ベルカント”でした。満席、初めて来られたお客さんも多かったし、久しぶりに会えた人もいて嬉しかったです。モルン綾ちゃん、五十嵐くん、特別な時間をありがとう。
八月のベルカントは次回は下北沢へ。次の日曜日、440で会いましょう。
Posted by monolog at 09:05│
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