1994年、大学3年の8月。ミニコミ誌を作ってた友だちが声をかけてくれてディスクレビューを書くために2週間ほど早くアドバンス・カセットを手に入れたから、ダラダラした二十歳の夏休みのBGMはこればっかりだった。どんな文章を書いたのか、ほんとにそのミニコミ誌が出たのかも覚えてないけど、そのカセットはずっとそばにある。
そしてあれから30年後の未来の2024年8月31日。小沢健二『LIFE』発売から30年の日本武道館公演を観にいった。残念ながら交通機関の断絶のせいで来場を諦めた人もいただろう。なんとドラマティックな台風の日々だったことか。台風をくぐり抜けて辿り着いた人たちの熱気。とにかく舞台が壮観、僕の目の前は服部隆之さんが指揮する21人編成のオーケストラだった。
丁寧に正調で歌われる「天使たちのシーン」の神々しさ。3時間のライブのなかで一番グッときたのが「ラブリー」だったのは自分でも意外、録音に使われたのと同じMartin D-18Eという電気化された生ギターで爪弾かれたイントロが本当にレコードそのままの音だった。
僕がメインで弾いてるギターMartin F-55には、その「ラブリー」で使用されたMartin D-18Eと同じDeArmond社のピックアップが装備されている。どちらのギターも当時人気のなかった、時代の徒花のようなモデルで短期間しか製造されなくて、僕のMartin F-55は世界に665本、Martin D-18Eにいたっては302本しかないらしい。
3時間のライブは素晴らしい時間だった。ステージ上のヒックスヴィルの御三方の姿を感慨深く眺める。友達にもたくさん会えた。声をかけてくれた人にも感謝。30年の時間を想った至福の夜でした。