ついにママンをうちの中に閉じ込めたまではよかったけれど、人馴れしていない彼女には触れないし、捕まえられない。とにかく外へ出たいママンは家中のあらゆるところに頭を突っ込んでいく。アオンアオンと赤子のような鳴き声、近隣にも聞こえてるのではないかと心配になるほど。その夜はママンの好きにさせて、疲れ果てた僕はそのままソファで寝てしまった。
翌朝、ママンを探すことからスタート。ポチ実はなに食わぬ顔で起きてきてご飯を食べている。想像していたよりもチミちゃんの心的ストレスが少なそうなで安心した。猫の親子関係・血縁意識というのは早い段階で喪失するらしいのだけど、ママン以外の猫に対しての態度と比べてチミがママンに投げる眼差しには特別な感情が含まれている、と感じる。チミもママンの行方を探しているみたいな顔。
さあこれからどうしよう。意見を仰ぐために旧知のむさしの地域猫の会の会長さんに電話をして、ママンを保護したことを伝えると「すごい!すごい!」と喜んでくれた。ママンを一度捕獲してTNRを施した立場からすると、あれから10年経って家猫になるなんて感慨深いだろう。困惑している僕のことを面白がっている感じもある。何かあったらすぐ駆けつけますから!と心強いことを言ってくれた。「まずはママンをつかまえて病院に連れていってくださいね」との指示。
ママンは寝室のベッドの、マットレスの下で固まって震えていた。そこは先代猫のポチが体調が悪くなった最期に姿を潜めた場所であり、来客があったときのチミの隠れ場所だ。猫たちにとっては特別な場所なのかもしれない。素手では捕まえられないのでなんとか隅に追い込んで、キャリーバッグのなかに誘いこんで、ようやくケージのなかにママンを移したのはもうお昼過ぎだった。最近知り合った大磯の保護猫活動グループの方ともメッセージのやりとり。「動物病院で身体についたノミもお腹のなかの虫もいっぺんに駆虫できる効果的な薬がある」とのこと。チミを保護して病院に行ったのがちょうど10年前、あれからいろんなことが格段に進歩しているんだろう。
ママンをなんとか洗濯ネットに入れた。初めての経験、これまでポチもチミも素手で抱けておとなしい猫だったからだ。キャリーバッグに入れて動物病院へ向かう。この病院でお世話になる3匹目の猫だ。お名前は?「ママンです」年齢は?「ん〜、13歳かなあ」とそのときは答えたけれど、12歳というのは本当のところではないかと今では思う。診察台のうえで体重を測ってもらうとママンの体重は3.25キロ。とても軽い。血液検査の結果をドキドキしながら待っているあいだ、ポチの頃からずっとお世話になっている院長(顔が似ているのでダライラマ先生とこっそり呼んでいる)が「今日はどうしたの?」と顔を出してくれたので「チミちゃんのお母さんを保護したんです。10年通い猫だったのを」と報告すると嬉しそうにママンの顔を覗き込んで「よく生き延びてきたね。力強い良い顔をしてる」と褒めてくれた。
いよいよ結果発表、なんとめでたくママンはFIV(猫エイズ)もFeLV(猫白血病)も陰性、血液検査の結果も信じられないくらい優秀だった。ネットにいれたままママンの爪を切ってもらい、ノミやダニ、おなかのなかの虫に効く駆虫剤、脱水を癒す輸液に耳の炎症に効くステロイドを混ぜてもらった。洗濯ネット越しに10年の付き合いになるのに触ったことがなかったママンに両手で触れていることに気づく。とても小さくて柔らかくて、弱々しくて儚い。
帰宅してそのままケージのなかへ。洗濯ネットから解放されたママンは少し呆けたような感じ。トイレを用意してあげなくては、と鉱石系の猫砂にママンが用を足していた庭の土を混ぜてあげた。ケージの隅で固まってスイッチオフ状態のママン。呼んでも反応がない。ケージにシーツをかぶせて独りにさせてあげる。その日の夜くらいになると、ケージからカリカリとフードを食べる音が聞こえてきた。猫砂をザッザッと掻く音も聞こえてきて安心。猫の習性にあらためて感心する。
夜鳴きがすごい。眠れないくらいの音量。外に出たくて鳴いているのだ。僕もつらい。猫のおもちゃで気を紛らわせられないかと遊ばせてみるがあんまり元気なし。翌日窓際に置いていたケージをリビングの反対側に移動すべく部屋の模様替え。人も猫も辛抱強くならないといけない季節の始まり。(気まぐれに続く)
Posted by monolog at 07:54│
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