
この日はなんと初めてママンが僕の手から「Ciaoちゅ〜る」を食べた日として記憶されることになる。どんな猫でも「ちゅ〜る」にかかれば、という猫好きにとっての幻想をこの10年ママンは軽々と打ち砕いてきた。手から食べないのはもちろん、お皿に盛っても鼻を近づけることすらなかったのが、この日はどういうわけか彼女は鼻先についたちゅ〜る一滴を舐めたとたんにごくごく自然にちゅーるを食べてくれたのだ。めちゃくちゃ感動して泣きそうになって、なんの涙かこれはと可笑しかった。
毎日のブラッシングがルーティンになった。まだ皮の手袋は外せないけれど、手袋越しにその頼りないママンの身体を触れるようになってきた。腰がウィークポイントみたいで、撫でるとカクンと足を投げ出してブラッシングをさせてくれる。目を細めて気持ちよさそうにするのと、ハッ!と我に返ってシャーと怒って皮の手袋に噛みついてくるのを定期的に繰り返す。注文していたドイツ製の高級ブラシが届いた。これは僕が勝手に高級ブラシと呼んでいるだけで値段はリーズナブルな「ドイツピンブラシ」。ブラッシング時のショックを吸収するラバークッションと静電気が起きにくい木製柄で先の丸い金属製ピンが特徴。ポチ実もこれが大好きで、ママンはもう最初のひとなでからこのブラシの虜になった。


毎日のブラッシング、ちゅ〜るを手から食べさせて、美味しいご飯をあげる。このなんていうことのないルーティンが続く日々の始まり。ママンの心も少しずつほどけてゆく?まだダメ?と一進一退。ようやく身体をまるめてこんこんと眠れるようになったのはいいことかもしれない。寝起きのちょっとボーッとしているときには素手で撫でられるようにもなった。仔猫から猫を飼うときはものすごいスピードで人馴れしたり仲良くなれたりするけれど、ママンにはママンの時間が必要。
昨日と今日が変わらないような毎日をしばらく過ごした頃に、もう僕に皮の手袋が必要なくなっていることに気づいてハッとする。気をつけないと引っかかれて血を見ることになるけどね。(気まぐれに続く)

