想像してみた。「人間よ、プラスティック製で頭を360度覆う大きな襟をつけて生活してみろ」と言われたらどれだけストレスフルか。喉がかわいて水を飲もうとコップを普通に唇に持っていってもゴツンとぶつかる。ご飯を食べようとしてもうまくいかない。額に流れる汗を拭おうとしても、眉尻がかゆくても全部カラーに手が当たる。スマホもパソコンも半透明のカラー越しに見ないといけなくて、きっと僕はくじけてしまってもうぐったりとふて寝するしかない。つらい。人間なら「あと10日、なんとか我慢して」って説明されたら指を折りながら腹を括れるのかもしれない。でも猫にはそういう説明ができないから、ママンの気持ちってどんなにか暗澹たるものかと思う。思い描いても計り知れない。想像が及ばない。
ここ数日ママンはケージの外で好きに過ごす時間が増えてきたので、ママンがカラーをいろんなところにぶつけないようになるべく物を置かないようにして障害物を片付けた。ママンもなんとなく嫌な思いをするのを意図的に回避しながら行動しているように感じる。エリザベスカラーに慣れることは難しくても、あきらめて受け入れることならできるのだろうか。ママンの本当の気持ちはわからない。SNS経由で、柔らかいカラーに替えてみてはどうか、良いメーカーのおすすめの商品が、とたくさんあたたかいアドバイスをいただいてとても心強いのだけど、それでも、手術のあと病院でつけてもらった今のカラーを次の通院までは外さないでおこうと決めた。

これも事後報告になるのですが、4月の終わりにママンに指をひどく噛まれました。手術を受ける前段階の、全身麻酔を伴う一日がかりの検査を受けたママンと帰宅した後の真夜中、慣れないエリザベスカラーをつけてヨロヨロしているのを僕が後ろから抱えてサポートしようと思ったその所作のせいでパニックになって興奮してしまったママンの鋭い歯に左中指の先をガブッとやられたのです(ザクッと、というほうが近いかもしれない)。全身全霊で暴れるママン、僕の右手の甲にも爪傷が派手に刻まれて、血をダラダラ流しながらなんとかママンをケージのなかに戻した僕は、とにかく流水で数分間かけて傷を洗い流し、殺菌消毒薬を浸し、タオルを巻いて傷を強く圧迫して止血。いくつかの救急外来に電話をするも受け入れてくれるところがなかったので朝が来るのを待って一番近い外科のお医者さんに駆け込んで診てもらいました。それからほぼ1週間通って、傷の具合を注視したのだけど病院の先生曰く、猫の噛み傷で腫れも痛みも少ないのは珍しい、噛まれてすぐの初動対応が良かったのだろうということでした。僕自身はママンを興奮させてしまったことへの申し訳なさや、「これ、おれ次のライブでギター弾けるのか?」という不安、その後に迫る手術のことなんかで頭がぐるぐるして、へとへとになってしまったのだけど。先日ついに「今日で指の病院、卒業です」と先生にお墨付きをいただき、昨日ギターを弾いてみたらちゃんと弾けたので、もう大丈夫だと思ってここに出来事を綴りました。右手甲の爪の傷はタトゥーみたいでちょっとかっこいいです。今週末のライブでみんなをびっくりさせるのも、時間をかけて説明するのもどうかと思って、この端的だけど長くなってしまった文章にて失礼します。
騒然とするリビング、なにごと?と起き抜けに2階から降りてきたチミちゃんが、床に僕の指からボトボトとこぼれた血だまりを見たときの目をまん丸にしてびっくりした顔がずっと忘れられない。「飼い猫(飼い犬)に手を噛まれる」ということわざがありますが、実際の場合、猫も犬も、動物たちはなにひとつ悪くないのです。ホントごめん、ママン。
