旧グッゲンハイム邸のある塩屋にたどり着いた頃には少し明るい曇り空になっていた。この日の懸案事項は急仕立てのイベントだったので音響を担当してくれるPAさんが見つからなくて、セルフPAで自分たちでセッティングして音を出さないといけないことだった。使い慣れない機材を扱えるか不安だったのが、「チェックチェック」とマイクの音ができたときの安堵感が僕のこの日の感情のいくつかあるピークのひとつだった。そこからは心がほぐれて、おなかが減ってることに気づいてチャッツワースのまかない弁当で満たされて、開演を待つ。準備も順調にいって、予定より30分も早くオープンしてお客さんたちもゆっくりチャッツワースの飲み物やフードを楽しめたのではないでしょうか。そしてついに空は晴れ、青空と日差しが。風が強いのに難儀したけれど、日よけの幌がなびく風景は気持ちの良いものでした。僕は旧グッゲンハイム邸の2階に大の字で寝転がって、差し込む夕日が溶けてなくなるまでその温かさを堪能しました。


ライブ前日にブログで指を怪我したこと、その前の週にママンの病気と手術のことを書いたので、客席には多分に緊張感とかみんなの心配とかいろんな想いが渦巻いていたと思う。楽しい夜にしたいと願いながらステージへ。「believe in magic」「光と水の関係」と神戸の海と青い空を思いながら夏の歌をエレキギター弾き語りでキックオフ。アコギよりも弦が細いエレキのほうが指に負担がないかも、とエレキギターで演奏するつもりだったのです、当初。でもアコギもなんとか弾けそうだと前日に判断。2曲目で早速エレキの弦が切れるというのも因果なもので、アコギに持ちかえて、最悪カラオケでと用意しておいたバックトラックにあわせて「思うことはいつも」。『cobblestone』25周年の話から以降は指のことを気にしないで演奏できるようになりました。「keep on rockin'」の輪唱、「午後の窓から」はこの会場のシチュエーションに完璧なマッチング。
公開弦張り替え作業からのエレキギターで「月あかりのナイトスイミング」、トレモロのギターで海に映る月みたいなイメージ。ロングドライブのあとの「glenville」はしみじみ響くね。リクエストをもらった「milk moon canyon」をチャッツワースに捧げて。岸本さんたちが来てくれて本当に心強かった。お客さんたちと交わす会話を僕はこっそり聞いてニコニコしていました。グランドピアノがある会場なのでピアノ弾き語りを。ブルーハーツの「TOO MUCH PAIN」はこの春に習得したお気に入りカバー。「ひそやかな魔法」はピアノで作った曲。今回初めてトライした「RGB」、Dのキーの曲をCに下げるという姑息な手法で。でも、そのキーで歌うのがここ最近の自分の気分にすごく似合っていたと思う。「手と手、影と影」を歌いながら途中自分が書いた歌詞がツボにはまってしまう瞬間があったり。



ここ神戸でも「シャーとニャーのはざまで」のコーラス録音をお客さんにお願いする。関西コーラスは東京コーラスと少し違うね、やっぱり。いい声たくさんありがとうございました。ママンの話をしてから新曲「最後のお願い」。やっぱりライブでみんなの顔を見ながらだと文字に書かない想いまで滲みでてくるなあと思いました。「夢の続き(imaginary)」も初めて関西で演奏することができた。最後はシカゴキカクわっさんが車中の会話のなかで「すごく好きなんです」と言ってくれた「小さな巣をつくるように暮らすこと」で本編終了。
アンコールに応えて再びステージへ。少し長い自分語りをしたあとで、予定になかったボブ・ディランの曲に芸術家の故 永井宏さんが日本語をつけて歌った「くよくよするなよ」を。イッツオールライトやで、という言葉は自分に向けて歌ったのかもしれない。「セラヴィとレリビー」、最後はリクエストに応えて「距離を越えてゆく言葉」。今日が終わって、明日は大阪。また明日ね。すごくすーっと彼方まで飛んでいくような声で歌えて、それがとても嬉しかった。終演後もいろいろあたたかい言葉をありがとうございました。
終演後、片付けまで終わってホッと安堵のため息を深く吐く。この日のライブのことですごく緊張していたんだなあと思った。シカゴキカク、チャッツワース、そして心強いサポートをしてくれた旧グッゲンハイム邸スタッフの皆さん、東京で僕の留守を支えてくれたスタッフ、想いを馳せてくれた皆さん、そして会場まで足を運んでくれたお客さん全員に心から感謝します。いつまでも記憶に残るような忘れられないライブになりました。


