

膝と背中がくっつくくらいぎゅうぎゅうの満員御礼となった会場、本棚に囲まれて第一部のトークが始まる。この日の司会は店主アガサさんではなく僕だった。僕のほうがお店について、彼女について聞きたいことがいっぱいあったから。この時代に町の本屋を始める理由は、もしかしたらこんな時代になっても音楽家として生業をたてようと邁進する自分とそんなに変わらないような気がした。もともと大きな本屋さんで書店員をしていたキャリアはこのお店をどこへ運んでいくのかその行く先がとても楽しみになった。
大きな通りに面したお店の入口側をステージにしたので、ひっきりなしに行き交う人波やなにをしてるんだろうと覗き込んでくる子どもたちの姿が印象的だったと終演後に教えてもらった(僕からは見えなかった)。でも“普通の本屋のふりをして、実は変わった本屋”を目指すのに、こういう秘密基地での集会みたいなイベントはこの町のみんなの興味を引くことになるかもしれないな。アガサさんは緊張していたけれど、終始トークは淀みなく、個人的にはすごく噛み合った面白いおしゃべりができたという達成感もありました。ぜひイベントを続けていってほしい。
第二部はライブ。店主アガサさんは中学生の頃から今まで、四半世紀GOMES THE HITMANと山田稔明の音楽を愛聴しているので、ここはもう彼女にセットリストを作ってもらおうと思ったのだ。1日考えて彼女が送ってきた曲目はなぜその曲を選んだかの理由も含めて、この場所で演奏するのに完璧なセットであった。1曲目は「点と線」、好きな歌を聞いて“読みかけの本”で手遊びして過ごしたというフレーズ。2曲目「blue moon skyline」には携帯、鍵、財布とカメラ、飴玉いくつかと“読みかけの本”。どうやら僕には読みかけの本がたくさんあるみたい。3曲目「言葉の海に声を沈めて」には“立ち寄った書店で手にした雑誌には僕の書き損じた文章が見覚えのない名前を連ねて踊ってた”。4曲目「一角獣と新しいホライズン」は中学の英語の教科書からそのタイトルが生まれた歌だけれど、アガサ店主が「NHK基礎英語のテキストとかを普通に売っている町の本屋です」と通りがかったお客さんにこの本屋の特色を伝えていたのが興味深かった。「レモンひときれ」は季節はずれの冬の歌だけれど“夜に店開く古本屋”が登場する。このお店でもまもなく古書を扱うそうだ。

店主セレクトから少し離れて、リクエストのあった「Qui La Laの夏物語」には太宰治と桜桃忌が登場する。桜桃忌6月19日は先代猫ポチが亡くなった日、「日向の猫」でみんなでラララを。大阪でも「シャーとニャーのはざまで」のコーラス録音にトライ。なんとこの日の客席にnino trincaのボーカル(ザ・ハミングス)角森さんがいらっしゃって、シャナナナコーラスに参加してもえらえたことがめちゃくちゃ嬉しい。いい声が録れました。ママンの話を少しして新曲「最後のお願い」と「夢の続き(imaginary)」を。そして本編を“本を閉じるように”締めくくるべく「オレンジ〜真実」を歌いました。
アンコールは再び店主セレクトの「my favorite things」、“読みかけの本をパラパラとめくるとき窓際のソファが居心地がいい”。ここにある本の9割は大型書店に行けばどこでも売っているというけれど、平置きされたり面置きされたりした本はとても個性的なタイトルが多く、こだわりが伺えるし、「私のお気に入り」を集めた棚はキラキラしていた。トークとライブで2時間のあっという間の出来事。とても楽しい時間でした。見切り発車だったかもしれないけれど、やってよかった。2回、3回と続いていけばいい。終演後はゆっくり本を眺めて、何冊も本を買って帰りました。旅先で買った本って少し特別。たくさんのご来場ありがとうございました。僕の本、サインを描き込んで亜笠不文律に託してあります。興味のある方はお出かけください。路面電車に乗ったりして。

