

5月17日、病院で抜糸をしてもらう日。通っている病院は車で1時間かかる埼玉にあって、ママンはキャリーバッグのなかからその大きなまん丸の目で車窓の景色を物珍しそうに眺めていました。左の額に刻まれた傷は長さにしてトータルで7センチほどか、それがいつのまにかきれいにくっついていて細胞の再生力を感じさせる。先生は「よし、傷口きれい、OK!」とパチパチと糸を外し始めた。病院ではママンは緊張しつつもとても大人しく、看護師さんたちに「かわいいかわいい」とキャーキャー言われながら撫で回されるのを僕は内心「オレひどく噛まれたんで油断しないようにね…」と思いながらニコニコ眺めるのだった。時間をかけて丁寧に抜糸がなされ、ついでに先生にママンの爪を切ってもらった。膝の上でパチパチと素直に手足を弄ばれるママンは小さくて健気でとてもかわいくて見ていて泣きそうになる。「もう仲良しだよね〜」とママンの頭を撫でる先生を見て、この人に診てもらって本当によかったなと思った。
とても嬉しいことがあった。「リンパ節へのがんの転移なし」という検査結果が出たのだ。扁平上皮がんというのは腫瘍の増殖や浸潤、転移の可能性が高い病気として知られているので、外科的手術以降、病気との“おいかけっこ”がどんなふうに続くのだろうかという未知の不安があったのが、ひとつクリアされて安堵のため息、深呼吸を何度も。僕の胸に錘のようにのしかかっていたひとつはこの不安だったのだなと気付く。本当に、すごく安心した。左耳の患部については「ほぼ完全切除」という評価、がん細胞の根っこのようなものが残っている可能性に対処する「電気化学療法」という治療が今後予定されています。もう少し。
帰宅後、カラーが外れて意気揚々としなやかに歩き回るママン。少し痩せたかな。だけどわずらわしいカラーがなくなって今日はカリカリもウェットも美味しそうに食べている。左耳がなくなったけれど人間でいう耳たぶがなくなっただけで、鼓膜はそのままなので耳が聞こえなくなったわけではありません。耳をアンテナみたいに動かして聞く素振りを思うと少しバランス感覚は変わるのかなとは思うけれど、ママンの感想を聞いてみたい。耳がなくなってからママンを毎日スケッチしてきて、その模様とか眼差しの美しさをあらためて見つめる良い機会になった。愛すべきアシンメトリー。これからも描く。ママンも、チミちゃんもね。
ママンが2週間を経て術後の傷が塞がった日、僕は指の絆創膏がようやく取れて3週間ぶりに両手で顔を洗った。僕の怪我のほうが長くかかるなんてね。猫の生命力よ。”A cat has nine lives ー猫に九生あり"とはこれ真実なり。
