ウォーキングするときに意識して背中を伸ばしてみる。お腹から歩くイメージを持ってみる。腕を後ろで組んで早歩きする。慣れると気持ちがいい。いろんなことを試すといかに自分のデフォルトの背中が丸まっているかがわかる。そして気づいたのだ。上を向いて歩くと背中が真っ直ぐに伸びることに。僕は身長が177センチあるが、普段はきっと猫背のせいで170センチくらいに見えるのではないか。それが上を向いて歩くと177センチの自分の目の高さで物を見ていることに気づく。「下ばかり向いて歩いているとこ」というフレーズは「セラヴィとレリビー」のなかで歌った言葉だが、上ばかり向いて歩くと背中が伸びる。
それだけじゃない。昨日は鬱屈とした曇り空に一筋の朝の太陽の光の具合で奇跡みたいな濃い虹に気づいたが、それは意識的に上を向いて歩いていたからにほかならない。空模様の美しさは猫背の目線の上にあるものだ。ほんの5分くらい色濃く立ち昇った虹はとても美しかった。僕は背筋を伸ばしてそれを眺めて、とても気持ちのいい朝になった。満月の月は雲に隠れてしまっていたけれど、美しい月だって上を向かないと見上げられない。
昔むかし、今から25年前、豊島区にあった「南長崎第一ことぶきの家」という高齢者介護施設に僕と堀越メンバーとけっちゃんで敬老の演奏をしにいったことがある。歌を楽しんでくれる方ももちろんいらっしゃったけれど、お年を召したおじいちゃんおばあちゃんは虚空を見つめて、その方たちの耳には僕らの歌はなんにも響かないように思った。1曲みんなが知っているような曲を、とリクエストされていたので僕らは「上を向いて歩こう」を「皆さん一緒に歌いましょう」と始めたのだけど、その瞬間にそこにいた先輩がた全員のスイッチがオンになったのがわかった。みんなが手拍子をして、みんなが歌いはじめた。僕は歌詞を調べてカンペを用意していたのが、結局はみんながよく知っている一番の歌詞を繰り返し歌った。途中から涙が出てきて感極まってライブを終えたことを憶えている。
ひとりぼっちの夜ではなく、ひとりぼっちの早朝の朝を見上げながら、四半世紀前の記憶が鮮やかに蘇る。上を向いて歩いて、胸を張って、背筋を伸ばして歩く。僕の猫背は、週末のレテ配信の姿がきっと最後になる。

